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大阪高等裁判所 昭和51年(う)550号 判決 1978年5月24日

本店の所在地

京都市上京区室町通丸太町上ル大門町二六五番地

一富株式会社

右代表者代表取締役

西山富三郎

本籍

京都市下京区仏光寺通鳥丸西入釘隠町二五二番地

住居

同市北区小山下総町四二番地の七

会社役員

西山富三郎

大正三年七月八日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和五一年三月一〇日京都地方裁判所が言渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 土居利忠 出席

主文

原判決を破棄する。

被告人一富株式会社を罰金七〇〇万円に

被告人西山富三郎を懲役八月に

各処する。

被告人西山富三郎につき、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

当審における訴訟費用は、被告人らの連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人中坊公平作成の控訴趣意書(うち第一(三)(ハ)については、弁護人において徹回する旨陳述した)及び補充控訴趣意書各記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一及び補充控訴趣意について

各論旨は、後記一ないし四のとおり事実誤認を主張するものであつて、これらの事実誤認の結果、原判決は、被告人一富株式会社(以下「被告会社」という)の昭和四七年一〇月九日から昭和四八年九月三〇日までの事業年度(以下「第一期」という)の所得金額を五、九五六万六、〇一〇円と認定しているが、実際の所得金額は三、一四一万六、一五一円に過ぎず、また、被告会社の昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの事業年度(以下「第二期」という)についてもその所得金額を九、〇七四万六、七七五円と認定しているが、実際は四、七一四万九、三二八円に過ぎないものであつて、第一期については二、八一四万九、八五〇円、第二期については四、三五九万七、四四七円を過大に認定しており、判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。以下各論旨につき順次検討する。

一、控訴趣意書第(一)(イ)及び(三)(イ)

論旨は、要するに、原判決は、被告会社が第一期及び第二期のいずれについても架空売上を計上し、他方これを上回る架空仕入を計上して損失が発生したように偽装し、その差額に相当する所得を隠匿したと認定しているが、(1)被告会社は、設立後年月が浅く会社資金も乏しいうえ、銀行からの金員借入や手形による商品仕入をするだけの信用がなく、加えて現金で商品を仕入れれば手形で仕入れる場合に比し一割以上廉価に仕入れることができるので、資力のある被告人西山富三郎個人にその仕入代金を現金で立替払して貰つて商品を仕入れ、一方、被告会社振出の支払期日を約二〇〇日先付にした約束手形を被告人西山に渡していたが、この現金仕入による利益は性質上被告人西山に還元すべきであり、また、(2)被告会社は、会社資金に充てるため被告人西山から現金を借入れ、その返済として支払期日を約二〇〇日先付にした約束手形を同被告人に渡していたが、これについてもその期日までの銀行利息にみあう第一期につき日歩二銭二厘第二期につき日歩二銭五厘の利息を同被告人に支払うべきは当然であり、そこで右約束手形の金額を右(2)の利息のほか(1)の商品仕入代金立替による一割の利益還元分を加算した額をも含めた金額として、帳簿上は前記借入金額を売上、手形金額を仕入としてそれぞれ架空計上して処理し、それによる差額金を被告人西山に支払つていたのである、従つて、右の差額は、原判決が認定するような被告会社の隠匿利益ではなく経費とみるべきものであり、これを所得に計上した原判決の認定は誤りである、そしてその内訳は、立替金の利益還元分が第一期一、一八九万五、八七〇円、第二期二八九万五、六〇〇円、借入金の利息分が第一期一六四万三、八一四円、第二期一、〇三七万四、五二七円となつており、第一期についてはその合計一、三五三万九、六八四円、第二期についてはその合計一、三二七万〇一二七円がそれぞれ当該事業年度の被告会社の益金から損金として控除されるべきである、というのである。

そこで原審で取調べた証拠に当審における事実取調の結果をも加えて検討すると、被告人西山は、長年にわたり兄の経営する株式会社西山商店(紬販売業)に専務取締役として勤務していたところ、兄との間に経営上の意見の対立等もあつて右会社から身を引き、昭和四七年一〇月新たに右会社と同じく紬の販売を主目的とする被告会社(資本金三、〇〇〇万円)を設立し自らその代表取締役となつたが、被告会社自体としては設立間がないこともあつて資金に乏しく、銀行等の金融機関や取引業界に対する信用度は薄く、手形による商品仕入も殆どできない状況にあつたため、当面被告人西山においてその個人資産を被告会社の事業資金に注ぎ込んでその運営に当つていたもので、具体的には、(1)被告会社が仕入れる商品の代金を被告人西山が現金で仕入先に立替払し、同被告人はその見返りとして被告会社からその振出にかかる支払期日を長期間先付にした同額の約束手形を受取り、右仕入商品が売れ会社に代金が入金された頃右手形金を銀行経由で現金化し同被告人の仮名の預金口座に入金する、(2)被告会社は、帳簿上架空売上を計上し、これに相当する現金を被告人西山から借入れるが、右架空売上による利益がそのまま課税対象になることをおそれ、帳簿上は同時に右架空売上額を上回る金額の架空仕入を計上して売上差損が生じたように見せかけ、右架空仕入金額と同額の支払期日を長期間先付にした約束手形を振出して同被告人に交付し、同被告人はこれを前同様現金化して同被告人の仮名の預金口座に入金する、という方法をとつていたことが認められるのである。所論は、前記仕入代金立替による一割の利益及び前記貸付金に対する利息は、経費として益金から控除すべきものであると主張するが、被告会社と被告人西山との右利益の還元及び利息支払についての約定がなされたことをうかがうに足る証拠はないばかりでなく、前記認定事実に加えて関係証拠を検討すれば、被告会社は、その実態はいわば被告人西山の個人企業ともいうべきもので、両者は一体のものとみることができ、被告会社の代表取締役である被告人西山が被告会社に対し右のように仕入代金を立替えたり、貸付を行つたのは、専ら被告会社の安定経営、事業の拡張、資産の充実等を意図して個人資金を注ぎ込んだものであつて、その資金を回収して同被告人の仮名の預金に入金したとしても、その実態は、被告会社の簿外経理としたに外ならず、従つてもとより被告人西山において被告会社から所論のような利益を得ようとの意思はなく、利益が生じればすべて会社に帰属するものと理解していたものであることがうかがわれる(大蔵事務官の被告人西山に対する昭和五〇年六月一三日付質問てん末書参照)のであつて、仮に被告人西山の仕入代金の立替、金員の貸付等によつて被告会社に所論のような利益が生じたとしても、これらはすべて被告会社に属するものというべく、これに反する被告人の当審公判延における供述は右質問てん末書の記載と対比し信用できず、所論は採用の限りではない。論旨は理由がない。

二、控訴趣意第一(二)(ロ)及び(三)(ロ)

論旨は、要するに、原判決は、被告会社が丸太株式会社に支払うべき紬の仕入代金のうち第一期分については合計二一四万三、五〇〇円、第二期分については合計一四六万〇五〇〇円が値引きされていて実際には右の各値引分を差引いた金額を支払つていたのにこれを秘し、値引分を加えた当初の仕入値段をそのまま計上し、値引分相当額の所得を隠匿したものと認定し、右の値引額を所得に計上しているが、元々右のような値引の事実はなく、被告会社は、値引分といわれる金額をも含めた代金で商品を仕入れていたものである、ただ、被告会社は、丸太株式会社に紬を発注するに当たり、これの原型となるべき図案を有償で同会社に譲渡しこれを使用して紬を製作するよう依頼していたので、これにもとづき丸太株式会社が製作した紬を被告会社が買受けるに当たつては、その代金に右の図案の価格が上乗せされていることは当然であり、他方右の図案を被告会社が他から買受け入手するについては、被告人西山がその代金を立替えていたので、本来であれば被告会社がまず図案を丸太株式会社に譲渡した際、同会社からその代金を受取り、これを被告人西山に償還するとともに、同会社に対してはその図案代が上乗せされている紬の仕入代金を支払うべきであるが、便宜取引を簡易化し、被告会社は、丸太株式会社から右の図案代金を直接受取らず、後日同会社に支払う紬の仕入代金から当該図案代金を差引き残余を同会社に支払うとともに、差引いた図案代金を被告人西山に償還する方法をとつていたのであるから、これが被告会社の隠匿所得として所得に計上されるいわれはない、というのである。

しかしながら、大蔵事務官の被告人西山に対する昭和五〇年七月二日付、同年一〇月八日付各質問てん末書、被告人の原審公判延における供述、被告会社の第一期仕入帳抜すい綴(弁申一号証)及び第二期仕入帳抜すい綴(弁申七号証)その他関係証拠によれば、所論指摘の各金員、即ち右弁申一号証の丸太株式会社分の支払金額欄中昭和四八年四月五日の七〇万八、〇〇〇円及び同年九月一七日の一四三万五、五〇〇円、計二一四万三、五〇〇円並びに弁申七号証の同会社の支払金額欄中の昭和四九年七月三〇日の一四六万〇、五〇〇円は、いずれも丸太株式会社より紬の仕入代金について値引がなされたのに、これを秘匿し帳簿上はこの値引分をも含めた額を仕入代金としてこれらの金員が被告会社振出の約束手形により被告人西山の仮名銀行口座に入金されていることを認めることができる。もつとも、当審において取調べた丸太株式会社取締役社長大島半兵衛作成名義の大阪国税局に対する昭和五〇年七月一七日付回答書によれば、丸太株式会社の売掛帳には、右金員中弁申一号証の七〇万八、〇〇〇円の一部に相当すると認められる昭和四八年四月二八日の貸方記載の六二万二、〇〇〇円についてのみ図案代七六枚と摘記されており、又当審証人榎原芳松は、同人が丸太株式会社を介して被告会社となした紬の取引に関し昭和四七年一二月から昭和四九年九月までの間に被告会社より紬の図案四四九枚(代金三六〇万四、〇〇〇円)を買取り、その代金支払を同人から丸太株式会社を介して被告会社に売渡した紬の代金から差引いて貰つて処理した旨所論に副う証言をしているが、右回答書によれば、同会社の売掛帳に図案代と摘記されているのは右六二万二、〇〇〇円についてのみであり、それ以外の所論指摘の各金員に相当する右売掛帳の貸方記載については、それぞれ反引、特引、値引と記載されており、又、所論の図案代差引に関する主張が捜査段階ならびに原審において被告人西山から全くなされないまま、当審において初めて主張されるに至つたものであることを考えると右証言もたやすく信用し難い(なお、右証言の基礎となつた榎原芳松作成名義の弁申三号証の表題は「値引証明書」となつている)のみならず、仮に同人と被告会社との取引において図案代の支払について所論のような処理がなされたことがあつたとしても、前記の如き被告会社と被告人西山との一体的な関係に着目すれば、たとえ所論のように被告人西山がその代金を支払つて図案を入手したものであつても、ひとたびこれを被告会社の営業の用に供した以上、これは被告会社の資産に繰り入れられたものと理解すべきであり、被告会社がこれを右榎原に売却したことによつて得た対価もまた当然被告会社に帰属するものとみるべきであるから、これを被告人西山に償還することを前提として、紬の現実の仕入価格に右の図案代(原認定値引分)を加算したものをもつてその仕入価格とすべしとする所論の失当であることに変わりはない。論旨は理由がない。

三、控訴趣意第一(二)(ハ)

論旨は、原判決は、被告会社の第一期における所得を算定するに当たり、研究費(紬の図案家に作成依頼しこれを取得するための費用、以下「図案代」という)九一五万円及びこれに対する源泉徴収税負担金一〇一万六、六六六円の合計一、〇一六万六、六六六円を経費として認め控除しているに過ぎないが、被告会社が同期に実際に支出した図案代は、一、八三〇万円であつてこれに対する源泉徴収税負担金二〇三万三、三三三円を加えると二、〇三三万三、三三三円がその経費として控除されるべきであるから、その差額である一、〇一六万六、六六七円だけを過少に認定している、というのである。

しかしながら、原審証拠中に所論に副うものはなく、当審証人丸尾真一の証言によれば、大阪国税局が被告会社を本件により調査した際、被告人西山から被告会社が正規の会計によらず簿外で所論のような図案代を支出しているので課税上経費として認めて欲しいとの申出があつたが、この点を認めるに足る疎明資料の提出がなく、他方被告会社の簿外預金から相当額の使途不明の支出がなされていることが認められたので、この金額の範囲内で被告人西山の言い分に従いその主張する簿外図案代を、その際同様主張していた簿外給与等と合わせて経費として被告会社の益金から控除する扱いとし、結局右の図案代の分としては原判決認定の限度でこれが認められたものであることがうかがわれ、これによれば、大阪国税局の係官としては、被告会社にその所得の修正申告をなさしめるに当たり、その主張する簿外図案代の内容を把握認定しこれを経費として認めたものではなく、簿外預金から支出されている使途不明金との関係上税務処理の便宜的措置として被告人西山の言い分に従い右使途不明金の金額の限度で承認したものに過ぎず、更にすすんで、これを認めるに足る証拠の全くない(所論に副う被告人西山の当審公判延における供述は右事情に照らし措信できない)本件において、所論の採用し難いことは多言を要しない。論旨は理由がない。

四、控訴趣意第一(二)(ニ)及び(三)(ニ)

論旨は、被告会社は、その取締役である西山きくに対し簿外で第一期においては合計二三〇万円、第二期においては二四〇万円の報酬等を支払つており、これらは被告会社の経費としてその益金から控除すべきであるのに、原判決がその控除をしなかつたのは不当である、というのである。

しかしながら、所論のように被告会社が西山きくに簿外報酬を支払つたことについて、これまでに捜査段階はもとより原審においても被告人西山からそのような主張がなされたことはなく、所論に副う同被告人の当審公判延における供述は措信できず、他にこれを認めるべき証拠はない。なお、原審において取調べた証拠によれば、西山きくは、被告会社の取締役とはなつているものの、被告人西山の妻であつて、同女に対しては被告会社から役員報酬及び賞与として第一期に二八五万円、第二期に二七二万五、〇〇〇円が支払われており、当時被告会社にとつては設立後間がない時期でいまだ経営が軌道にのつておらず、会社資金にも事欠く状況にあり、このような中で右の金額に加えて更に簿外で同女に報酬等を支給しなければならないような特別の事情は何もうかがわれず、この点被告会社が他の会社から引き抜き営業部長ないし営業部員として入社させた萩野富一外三名に対しその経験に期待し爾後被告会社に引き続きとどまつてもらうための優遇措置として正規の給与等の外に簿外で相当額の金員を支払つていた(これについては、本件で大阪国税局から調査を受けた際、被告人西山より右の特殊事情を説明し、国税局側においてもこれを調査した結果この事実が認められ、これらの簿外支給をすべて被告会社の損金として処理する扱いとなつている)のとは事情を異にするものであつて、この点から見ても所論を採用し得ないことは明らかである。論旨は理由がない。

控訴趣意第二について

論旨は、量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ記録を調査し当審における事実調の結果をも加えて検討するに、本件は、被告会社が法人税の納付に関しその所得を申告するに当たり第一期においては四、八八二万〇七三六円、第二期においては七、三一九万七、一三三円(合計一億二、一〇一万〇五〇〇円)にのぽる多額の所得を秘匿し合計四、七二二万〇五〇〇円の法人税の納付を免れた事案であつて、被告会社ならびにその業務一切を総括していた被告人西山の責任は軽視し難いものがあるが、その後被告会社においては、第一期、第二期いずれについてもその所得額の修正申告をなし、それに対応する課税額の賦課決定を得たうえ、これに従つて法人税等合計一億円余(そのうち本件事犯により賦課された重加算税、延滞税等の合計は二、二八一万円余にのぽる)を既に納付済みであること、本件当時被告会社は、設立後間がない時期にあつて、しかも被告人西山の兄が経営する株式会社西山商店と対立競業関係にありその経営が困難な状況にあつたことから本件犯行に及んだものと思われることその他所論指摘の諸事情を総合考慮すると、被告人らに対する原判決の各量刑は、いずれも重きに過ぎるものと考えられる。論旨は理由がある。

そこで刑事訴訟法第三九七条一項、三八一条により被告人ら両名に対する関係で原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従いさらに判決することとし、原判決の認定した事実に被告会社については法人税法一六四条一項、一五九条一項、刑法四五条前段、四八条二項、被告人西山については法人税法一五九条一項(懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い原判示第二の罪の刑に併合加重)、二五条一項、被告人ら両名について刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石松竹雄 裁判官 長崎裕次 裁判長裁判官河村澄夫は転任のため署名押印できない。裁判官 石松竹雄)

○控訴趣意書

被告人 一富株式会社外一名

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴趣意は次のとおりである。

昭和五一年六月一五日

弁護人 中坊公平

大阪高等裁判所

第三刑事部 御中

第一、原判決は次の様に明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。

(一) 原判決の事実誤認

原判決は、被告人一富株式会社(以下被告人会社という)の昭和四七年一〇月九日から翌昭和四八年九月三〇日までの事業年度(以下第一期という)の所得金額が五、九五六万六、〇一〇円であると認定しているが、後に詳述するとおり被告人会社の第一期の所得は三、〇九二万三、八八三円である。

したがつて、原判決は被告人会社の第一期の所得金額のうち二、八六四万二、一一八円を過大に認定した違法がある。

次に原判決は、被告人会社の昭和四八年一〇月一日から翌昭和四九年九月三〇日までの事業年度(以下第二期という)の所得金額が九、〇七四万六、七七五円であると認定しているが、後に詳述するとおり第二期の被告人会社の所得金額は四、七一五万一、〇四八円である。

したがつて、原判決には、被告人会社の第二期の所得金額のうち四、三五九万五、七二七円を過大に認定した違法がある。

以下第一期、第二期にわけて順次分説する。

(二) 第一期の事実誤認

原判決が、第一期の所得金額のうち誤つて過大に認定した二、八六四万二、一一八円の内訳は次の(イ)乃至(ニ)のとおりである。

(イ) 被告人西山から金員を借入れたことに対する利息の支払を経費と認定しなかつた誤りにもとづくもの-一、四〇三万二、六一八円、(ロ)丸太株式会社からの仕入原価を過少に認定した誤りにもとづくもの-二一四万三、五〇〇円、(ハ)研究費(図案代)を過少に認定した誤りにもとづくもの-一、〇一六万六、〇〇〇円、(ニ)西山きくに対する給与を過少に認定した誤りにもとづくもの-二三〇万円。

以下(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の順に各項目について説明する。

(イ)被告人西山から金員を借入れたことに対する利息の支払を経費と認定しなかつた誤り

原判決は、被告人会社は第一期中に架空売上三、三二一万九、〇〇〇円を計上し、他方これに対して架空仕入八、四四八万七、〇〇〇円を計上して、損失が発生した様に偽装し、架空仕入と架空売上の差額五、一二六万八、〇〇〇円の所得を隠匿したと認定されている。

(丸尾真一作成の第一期脱税計算書の増差所得の内訳参照)

成程被告人西山は右差額金を被告人振出の手形で受領し、架空名義で取立てて同人の所得としていることが判明する。

しかしこの差額金のうち実質上被告人会社の経費として被告人西山に支払われているものについては、当然所得金額の計算上は、経費として認定しなければならない。

原判決はこの点について、被告人西山が立替え支払つてきた図案代を前記差額金の受領として、返還うけたことを被告人会社の研究費という勘定項目で同会社の経費として認定している。

してみれば、同じく被告人会社が被告人西山から借入たり、或いは仕入代金を被告人西山に立替え支払つてもらつた際に支払う利息を前記差額金として被告人西山に支払つていたのであるから、当然この利息も被告人会社の経費に認定されるべきものである。

そもそも前記架空売上や架空仕入を計上し、仕入を売上より多くして被告人会社に損失を発生させたかのように工作することは、脱税の目的からだけ出発したものでなく、被告人会社が設立直后であつて会社資金も乏しいうえに会社自体の信用もすくないところから、被告人西山が個人資金を会社に投入したその資金の返済、あるいは資金に対する利息の支払を可能ならしめるためであつた。

これを架空売上の現金借入と仕入代金の立替支払について説明すると次の様になる。

先ず架空売上の場合の金員貸付について云えば、被告人西山は、先ず架空売上に該当する日時にその売上に該当する金額を個人の資金から被告人会社に現金で人金する。そしてその返済として架空仕入のための被告人振出の手形(これは大体二〇〇日位さきの支払期日になつている)を受領するのである。換言すれば、被告人会社は被告人西山から架空売上に相当する金を現金をもつて借受け、その返済を同会社振出の約二〇〇日さきの手形でなしたことになる。

ここには当然被告人会社としては借入た現金に対する二〇〇日余日間の利息を支払わなければならない。被告人会社はこの利息の支払の意味をも含めて架空仕入の金額を架空売上より多くして被告人西山にその差額金を支払つていたのである。

次に仕入代金の立替支払による金員貸付について云えば、被告人会社は設立直后で信用がうすく、手形で商品を買うことが困難であり、加えて現金で購入すれば、手形による購入より一割以上廉価に購入できるところから、主として第一期において、被告人西山は、個人資金をもつて被告人会社に代つて仕入先に現金で支払い、一方被告人会社からは同会社振出の大体二〇〇余日さきの手形を受領していたのである。換言すれば、被告人会社は被告人西山から立替金相当額を現金をもつて借入れ、その返済を被告人会社振出の二〇〇余日さきの手形でなしたことになる。

ここには当然被告人会社としては、右借入金について二〇〇余日間の利息あるいは現金払のために廉価となつた利益分を被告人西山に支払わねばならない。被告人会社はこの利息あるいは利益の還元の意味を含めて架空仕入の金額を架空売上より多くして被告人西山にその差額を支払つていたものである。

被告人会社の所得という観点から考察してみると、仕入代金の現金による立替払の場合、被告人会社は本来ならば売上が手形でしか回収されない状況下において、現金をもつて仕入代金を支払うことは不可能であつた。してみれば、前述の様に仕入価格は現金購入の場合より最低一割以上廉価に購入できたことになる。これを売上額と比較すれば、当然一割以上の余分の利益が被告人会社に発生したことになる。しかしこの余分の利益は被告人西山が現金をもつて立替え支払つたためであり、その余分の利益を被告人西山が取得したのは当然であり、この余分の利益を被告人会社の利益として計上することは明らかに誤りである。

同様のことが架空売上名義のもとにおける現金借入にあてはまる。被告人会社として右金員を被告人西山から借りることができなければこれを銀行などから借入れざるを得ないのである。銀行から借入れば最低日歩二銭二厘程度の金利を支払わねばならないのは当然である。してみれば被告人西山からの現金借入によつて被告人会社はこの金利相当分の余分の利益を得たことになる。

この余分の利益を被告人西山が取得したのは当然であり、この余分の利益を被告人会社の利益として計上することは明らかに誤りである。

原判決の犯している誤りを計数上明らかにすると別添第一期架空売上による金利計算書並びに第一期立替払利益計算書のとおりとなる。

これは仕入代金の立替払の場合は、立替金の一割、架空売上名義による借入については日歩二銭二厘の割合による受取手形の支払期日までの期間の金利計算したものである。

一期中における仕入代金の現金立替払による余分の利益は、一、一九二万五、七七〇円、架空売上名義による借受金の金利は、二一〇万六、八四八円、合計一、四〇三万二、六一八円となる。この金額は当然被告人会社の所得から除外されるべきであり、この除外をしなかつた原判決は事実誤認を犯している。

(ロ) 丸太株式会社からの仕入原価を過少に認定した誤り

丸太株式会社は、被告人会社の仕入先の一つであるが、群馬県伊勢崎市にあつてメーカーである織屋ではなく、買継商といわれるブローカーである。被告人会社の仕入先はほとんどが織屋であり、九州地方にのみ所在地が限定されていたことからすると唯一の例外であつた。

原判決は、被告人会社が丸太株式会社から第一期中に仕入れた代金のうち二一四万三、五〇〇円は、仕入値引分と処理すべきものであり、被告人会社は右金額に相当する金額だけ仕入価格を過大に偽装し、所得の隠匿をなしたと認定する。

しかし、右金額は図案代に相当するものであり、仕入原価に加算すべきものである。

被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書において明かなとおり、被告人会社は、主として大島紬の卸売のみを行う専門業者であるが、単に織屋が製造したものを販売するのではなく、被告人会社においてオリジナルな図案を作成し、これを織屋に提供して独創的な図柄の大島紬を織らせ、この商品を主に販売してきたものである。

第一期においては、被告人会社の信用がうすかつたために、織屋には無償で図案を提供していたが、丸太株式会社はブローカーであり、会社所有地も被告人会社の織屋とは遠隔地であつたので、丸太株式会社のみは、図案を有償譲渡していたものである。

この譲渡代金が二一四万三、五〇〇円である。

したがつて、被告人会社が丸太株式会社から仕入れた紬の仕入原価には当然前記図案代は加算されているのである。

原判決が丸太株式会社の仕入原価から図案代に相当する価格を減額し、仕入価格を過少に認定したのは明らかに誤りである。

なお原判決は、被告人会社が丸太株式会社から紬を買入れるに際し、前記図案代に相当する価格だけを別の手形とし、これを被告人西山が取得している点に着目して、真実の仕入価格は、丸太株式会社が取得した手形の代金のみと判断されたと思われる。

成程一見するとその様に疑われる余地はある。

しかし、これは後述する様に、図案を作成したのは、被告人会社であるが、図案を作成する費用は被告人西山が立替え支払つていたからである。

実質的に考察すると、被告人会社は丸太株式会社から図案代を合した価格で仕入をなし、他方丸太株式会社は、図案代を被告人会社に支払い、被告人会社はさらにこれを被告人西山に支払うことになるのである。

本件においては、これが簡易化され、実質上図案代を取得する被告人西山が被告人会社から直接に手形を取得したにとどまる。

以上のように原判決は、丸太株式会社の仕入価格を二一四万三、五〇〇円だけ過少に認定した事実誤認を犯している。

(ハ) 研究費(図案代)を過少に認定した誤り

原判決は、前述の様に、被告人西山が被告会社のために簿外で立替支払つた図案代(正確には図案代九一五万円この源泉徴収税負担金一〇一万六、六六六円)一、〇一六万六、六六六円を被告人会社の研究費として経費として所得から控除している。

しかし、被告人西山が一期中に支出した図案代(但し、前記丸太株式会社に対する図案代を除く)の総額は認定金額の倍額、すなわち一、八三〇万円とその源泉徴収税負担金合計一、〇三三万三、三三二円であつた。

しかし被告人西山が図案代の作成費用の支払先の氏名を明らかにすることを拒んだため、国税局は一方的にその数字を半額だけ認定することにし、その旨被告人西山に半額のみの一覧表を作成させて質問てん末書(昭和五〇年九月五日付)に添付させている。

被告人西山はその以前に織屋から無償譲受けた図案の明細書をとり、これを国税局に提出していた。

その明細書にもとづいて認定の倍額の金額が国税局に報告されていたのである。

しかるに国税局担当官は、半額だけでも認めてもらえば好意的な取扱いだと称して理由なく図案代を半額に認定し、これに伴う被告人西山の供述を得ているのである。

原判決は、この被告人西山の偽りの供述書にもとづいて国税局が認定したとおりの図案代を半額だけ認定したものである。

しかし所得はあくまで客観的な事実にもとづかなければならない。

半額というような政治的な取扱いでごまかされてはならない。

この意味において原判決は、研究費を一、〇一六万六、六六六円だけ誤つて過少に認定し、事実誤認を犯している。

(ニ) 西山きくに対する給与を過少に認定した誤り

西山きくは被告人西山の妻である。

同女は被告人会社設立と同時に同会社の従業員として勤務してきた。

被告人会社は前述の様にオリジナルな紬の卸売を主たる営業品目としていたため、女性の感覚による図案の創作が不可欠のことであつたため、西山きくはこの図案の創作業務に専念し、被告人会社盛業の原動力となつた。

原判決も認定している様に、被告人会社は一期において従業員(萩野、宮原、中川、隈)に対し、総額五九〇万円の簿外給与を支給していた。

西山きくに対しても同様に簿外給与と賞与を支払つてきた。

その明細は別添西山きく簿外給与支払明細表のとおりであり、その総額は二三〇万円である。

国税局は西山きくが被告人西山の妻であるという理由のみをもつて、西山きくに対する簿外給与の支払を認定しなかつた。

しかし、被告人会社は西山きくに対し、一期中において二三〇万円の簿外給与を支払つているのであるから当然これは経費として所得から控除されなければならない。

原判決は、誤つて西山きくの簿外給与の支払を所得から控除していない事実誤認がある。

(三) 第二期の事実誤認

原判決が、第二期の所得金額のうち誤つて過大に認定した四、三五九万五、七二七円の内訳は次のとおりである。

(イ)被告人西山から金員を借入れたことに対する利息の支払を経費と認定しなかつた誤りにもとづくもの-一、三二六万八、四〇七円、(ロ)丸太株式会社からの仕入原価を過少に認定した誤りにもとづくもの-一四六万〇、五〇〇円、(ハ)第二期の期末棚卸高を過大に認定した誤りにもとづくもの-二、六四六万六、八二〇円、(ニ)西山きくに対する給与を過少に認定した誤り-二四〇万円。

以下(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の順に各項目について説明する。

(イ) 被告人西山から金員を借入れたことに対する利息の支払を経費と認定しなかつた誤り

被告人西山は一期と同様に、被告人会社に対し、架空売上名義をもつて、また仕入代金の立替払によつて、それぞれの個人の資金を貸付け、その利息あるいは利益の配分として、架空売上より架空仕入の価格を増加させることによつて、被告人会社から金員の支払をうけている。

このうち立替金払の場合は、立替金の一割の利益、架空売上名義による場合は、架空売上として現金を被告人会社が借受けた日より、架空仕入手形の支払期日までの期間、日歩二銭二厘の割合による金利(銀行金利)は当然被告人西山に支払つた金利として被告人会社の経費に計上せられるべきものである。

第二期中における明細は別添第二期架空売上による金利計算書並びに第二期立替払利益計算書のとおりである。

第二期中における架空売上名義による借受金の金利は、一、〇三七万二、八〇七円、仕入代金の現金立替払による余分の利益は二八九万五、六〇〇円、合計一、三二六万八、四〇七円である。

この金額は、当然被告人会社の所得から除外されるべきものであり、これを除外しなかつた原判決は事実誤認を犯している。

(ロ) 丸太株式会社からの仕入原価を過少に認定した誤り

第一期と同様に、原判決は丸太株式会社からの第二期中の仕入原価について図案代相当額を過少に認定する誤りを犯している。

この額は、一四六万〇、五〇〇円である。

(ハ) 第二期の期末棚卸高を過大に認定した誤り

原判決は、被告人会社は第二期の期末において棚卸商品を六、八四六万六、八二〇円(但し紬につき六、〇七五万七、〇〇〇円、コーマ生地七七〇万九、八二〇円)すくなくする様に架空売上、あるいは架空仕入をなしていたと認定している。

成程被告人会社は第二期中に紬を六、〇七五万七、〇〇〇円架空売上して棚卸商品を減少させ、コーマ生地を第二期中に一、七九九万九、五二〇円で仕入れていたものを一、〇二八万九、七〇〇円で架空売上して差額七七〇万九、八二〇円の棚卸損を発生させている。

なお紬については、この商品を第三期において四、二〇〇万円で仕入をなしている。

架空売上、架空仕入の方法により棚卸損を発生させることは適当でない。しかし第二期の期末において、紬、コーマ生地についてはいずれも当時の市場が暴落し、そのうえ商品の不良品も加つて、紬については前記六、〇七五万七、〇〇〇円と四、二〇〇万円との差額一、八七五万七、〇〇〇円は真実第二期において棚卸損として評価すべきものであり、コーマ生地については前記架空売上と架空仕入の差額である七、〇七〇万九、八二〇円は真実棚卸損である。

被告人会社が棚卸損を不適当な方法で処理したからといつて客観的に発生している棚卸損がなくなるものではない。

原判決はこの様にして第二期の期末の棚卸高を前記一、八七五万七、〇〇〇円と七、〇七〇万九、八二〇円の合計額二、六四六万六、八二〇円過大に認定する事実誤認を犯している。

(ニ) 西山きくに対する給与を過少に認定した誤り

第二期中においても西山きくに対する簿外給与の支払い(明細は別表西山きく簿外給与支払明細表のとおり)が行われ、その額は二四〇万となつている。

原判決はこれを経費として認定しない事実誤認を犯している。

(四) 原審で事実誤認を争わなかつた理由

被告人会社、被告人西山はともに以上の一部無罪の主義を原審で全くしていない。

これは被告人両名に対し、国税局より無罪を争えば当局の立場がなくなる、加えて被告人両名の脱税の事実がマスコミに公表され、同人等の信用を失うと再三にわたり勧告をうけていたことによる。

しかし現実には争わなくてもこの事実はマスコミに報じられた。

被告人両名はあえて控訴審において客観的真実にもとづきその一部無罪を主張するものである。

第二、刑の量定不当

原判決は、被告人西山に対し懲役一年(執行猶予三年)、被告人会社に対し罰金一、五〇〇万円の刑を言渡しているが、これは量刑重きに過ぎて不当である。

すなわち、被告人会社の第一期の犯則所得は、原判決認定とおりの四、八八二万〇、七三六円でなく、事実誤認の項において詳述したとおり二、〇一七万八、六七七円であり、第二期の犯則所得は原判決認定のとおりの七、三一九万七、一三三円でなく事実誤認の項において詳述したとおり二、九六〇万一、四〇六円であり、原判決認定の約半額以下となる。

法人税法違反という犯罪の場合、まず犯則所得の金額が刑の量定についての重要な基準であることはいうまでもない。

この金額が半額以下になれば、当然刑の量定は変更されなければならない。

次に仮りに犯則所得の金額に関する被告人等の主張が一部理由がないとしても、それは法人所得把握の見解の差異にもとづくものにすぎず、実質被告人会社の所得として処理するには酷なものである。

加えて本件犯行の動機が被告人原審における供述からしても明らかなとおり、会社設立后であつて会社資産の乏しいことから、個人資金を会社に投入した結果にもとづくものであり、到底一般の脱税犯の場合とその犯情を異にするのである。

しかるに原審が、これらの事情を全く考慮することなく被告人会社に対し求刑どおりの罰金刑に処したのは明らかに刑の量定を間違つている。

第1期仕入立替払利益明細表47.10~48.9

No1

<省略>

No2

<省略>

No3

<省略>

No4

<省略>

No5

<省略>

No6

<省略>

第一期

架空売上による金利計算

No7

<省略>

第二期仕入立替払利益明細表 48.10~49.9

No20

<省略>

No202

<省略>

第二期

架空売上による金利計算

No1

<省略>

No2

<省略>

No3

<省略>

No4

<省略>

No5

<省略>

No6

<省略>

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